「子どもが好き」という純粋な気持ちで始まった保育士としてのキャリア。しかし、年齢を重ねるにつれて、その情熱だけでは乗り越えられない壁に直面することがあります。それは、心と体の「衰え」という、誰にも避けることのできない現実です。腰や膝の痛み、若い頃のようには動かない体、そして、絶え間ない緊張感と責任感からくる精神的な疲労。定年まで、あるいはその先も、この大好きな仕事を健康で、笑顔で続けていくためには、自分自身の心と体を意識的にケアし、守っていくという視点が不可欠になります。ここでは、ベテラン保育士が実践できる、心身のセルフケアと働き方の工夫についてご紹介します。 まず、最も深刻な問題となりがちなのが、身体的な負担です。特に「腰痛」は、多くの保育士が抱える職業病と言えるでしょう。子どもを抱き上げる、低い椅子に座って作業する、おむつ替えで中腰になる。日々の業務には、腰に負担のかかる動作が溢れています。大切なのは、体に負担の少ない動きを習慣づけることです。子どもを抱き上げる際は、腰を落として膝の力を使い、自分の体に密着させる。床の物を拾う時も、背中を丸めず、膝を曲げる。こうした小さな意識の積み重ねが、腰への負担を大きく軽減します。また、仕事終わりや寝る前のストレッチを日課にし、凝り固まった筋肉をほぐしてあげることも非常に重要です。 精神的な健康、すなわちメンタルヘルスを保つことも、身体の健康と同じくらい重要です。長年の経験の中で、知らず知らずのうちに「こうあるべきだ」という理想の保育士像に自分を縛り付けていませんか。完璧主義は、自分自身を追い詰め、ストレスを増大させる原因となります。「まあ、いいか」「今日はここまで」と、自分を許してあげる「良い加減」を身につけることも、ベテランだからこそできる心の技術です。また、若手職員とのジェネレーションギャップに悩むこともあるでしょう。価値観の違いを否定するのではなく、「そういう考え方もあるのか」と、一つの意見として受け入れる。全てを理解しようとせず、適度な距離感を保つことも、心の平穏を保つためには必要です。そして何より、仕事の悩みや愚痴を話せる、信頼できる同僚や友人、家族の存在は、最高の精神安定剤となります。一人で抱え込まず、弱音を吐ける場所を確保しておくことが、心を燃え尽きさせないための秘訣です。 キャリアの後半では、働き方そのものを柔軟に見直すという視点も大切になります。体力的にフルタイムで子どもたちと走り回るのがきつくなってきたと感じたら、園長に相談し、役割の変更を検討してもらうのも一つの手です。例えば、経験を活かして主任や園長といった管理職を目指す道。あるいは、発達に課題のある子に個別に関わる「加配担当」や、保育補助、事務作業を専門に担うといった、体力的な負担が少ないポジションへのシフトも考えられます。若手に任せられることは積極的に任せ、自分は一歩引いたところから全体を見守り、サポートに徹するという「見守る保育」へスタイルを変えていくことも、ベテランだからこそできる役割転換です。さらに、思い切って正社員からパートタイム勤務に切り替え、勤務日数や時間を減らすという選択肢もあります。収入は減りますが、心身の余裕が生まれ、結果的に長く仕事を続けられることに繋がるかもしれません。 年齢を重ねることは、決して衰えることだけを意味するのではありません。それは、経験という知恵を蓄え、心に深みと余裕が生まれるということです。自分の心と体の声に真摯に耳を傾け、その変化を素直に受け入れる。そして、必要であれば、働き方や役割を柔軟に変えていく勇気を持つこと。それこそが、保育という素晴らしい仕事を、人生の最後のステージまで楽しみ、輝き続けるための、最も大切な秘訣なのです。
「好き」だけでは続かないベテラン保育士の心と体の守り方