医療保育士が持つ数多くの専門スキルの中でも、その中核をなし、彼らを単なる「子どもの遊び相手」ではない「医療チームの一員」たらしめている技術があります。それが「プレパレーション」です。これは、これから行われる検査や治療、手術といった医療行為について、子どもが理解できる方法で事前に説明し、心の準備を促すための、高度なコミュニケーション技術です。ここでは、医療保育士の専門性の象徴とも言える、プレパレーションの奥深い世界とその具体的な仕事術に迫ります。 プレパレーションの根底にあるのは、「子どもは、自分の身に起こることについて知る権利があり、医療の受け手であると同時に、主体的な参加者である」という、子どもの権利擁護の考え方です。何も知らされないまま、いきなり痛いことや怖いことをされるという経験は、子どもに大きな恐怖と無力感を与え、医療そのものへの不信感や、長期的なトラウマを残す原因となり得ます。プレパレーションは、こうした子どもの心理的苦痛を最小限に抑え、子どもが少しでも主体的に、そして安心して医療に臨めるようにすることを目的としています。その効果は、精神的な安定だけでなく、医療への協力的な姿勢を引き出し、処置をスムーズに進めることで、結果的に身体的な苦痛を軽減することにも繋がるのです。 では、医療保育士は、具体的にどのようにプレパレーションを実践するのでしょうか。その手法は、子どもの年齢や発達段階、理解力、そしてこれから行われる医療行為の内容によって、様々にカスタマイズされます。例えば、幼い子どもに対しては、言葉での説明だけでなく、視覚的なツールを駆使します。採血を説明する際には、注射器のイラストが出てくる絵本を一緒に読み、「ここにバイキンマンがいないか、ちょっとだけ血をとって調べるんだよ」と、子どもがイメージしやすいストーリー仕立てで伝えます。手術を控えた子には、手術室の様子やスタッフの服装を描いた写真を見せたり、子どもと同じように手術着を着せた人形(プレパレーション・ドール)を使って、麻酔で眠るところから目が覚めるまでの一連の流れを、遊びの形で体験させたりします。 プレパレーションで重要なのは、嘘をつかないことです。「全然痛くないよ」といった偽りの安心は、かえって信頼を損ないます。「ちょっとチクっとするけど、すぐ終わるからね」「眠くなるお薬を使うから、目が覚めたら全部終わってるよ」というように、正直に、しかし子どもが受け止められる範囲で、事実を伝える誠実さが求められます。また、子どもが自分の気持ちを表現する機会を与えることも大切です。人形を使って「この子、どんな気持ちかな?」「注射、ちょっと怖いかな?」と尋ねることで、子どもは自分の不安な気持ちを投影し、表出することができます。その不安を受け止め、共感を示した上で、「怖くても大丈夫だよ、先生がずっとそばにいるからね」と伝えることで、子どもは安心感を得て、困難に立ち向かう勇気を持つことができるのです。 このプレパレーションと密接に関連するのが、「ディストラクション(気晴らし)」という技術です。これは、処置の「最中」に、子どもの注意を痛みや恐怖からそらすための関わりです。シャボン玉を吹いたり、歌をうたったり、スマートフォンで好きな動画を見せたりと、その子の興味に合わせて様々な方法が用いられます。処置の「前」に行うプレパレーションで心の準備をし、処置の「最中」に行うディストラクションで苦痛を乗り切る。この二つの技術を巧みに組み合わせることで、子どもが医療体験を乗り越えるための、強力なサポートが実現します。医療保育士は、子どもの心と医療行為の間にある深い溝を、専門的な知識と技術、そして深い愛情をもって埋めていく、卓越した「心の翻訳家」なのです。
プレパレーションの専門家医療保育士の仕事術に迫る